痛風・高尿酸血症のインフォームドコンセントとインターネット

【はじめに】

現在、医療系ホームページの利用者は、インターネット利用者の増加を大きく上回るペースで増加しており、何らかの疾病に罹患した場合にインターネットで情報を検索することは、もはや一般的な手段となってきている。痛風発作に対して非ステロイド系消炎鎮痛剤を服用する必要性を患者に納得させることは容易であるが、非発作期や無症候性高尿酸血症に対する尿酸コントロールの必要性を理解させ治療を継続することは難しいことは臨床の現場で常に経験することである。このような長期にわたる医療管理でもインターネットはきわめて有効なツールとなると考える。インターネットを利用した情報の取得は「いつでも、どこでも、だれにでも」可能であるばかりでなく必要としたときに直ぐに利用出来ることと情報の双方向性があることが特徴である。今まで医療情報は医療関係者と患者の間では極端な非対称性が存在していたがインターネットの普及で急速に縮まっていく可能性がある。痛風・高尿酸血症のインフォームドコンセントについて当院での試みを中心に述べてみたい。

【痛風医療相談の現状】

当院痛風・リウマチ外来では、平成9年9月より「痛風のホームページ」を立ち上げ、痛風の病態や検査、治療法についての一般患者向けの解説と痛風に関するQ&AのコーナーやEメールによる医療相談を積極的に受け付けている。痛風に関するホームページが比較的稀であったことや平成10年8月に「yahoo Japan」よりお勧めページとして推薦を受けたことなどにより、多くのアクセスを受けることができ痛風に関するEメールによる医療相談の件数も増加し、平成11年11月までで約1300件となった。平成11年9月からは「両国東口クリニックのホームページ」上へ移動し、「インターネット医科大学(現健康@nifty)」でも痛風医療相談を受け付けており現在1日に3~5件の痛風医療相談を行っている。平成10年8月から平成11年11月までのEメールによる医療相談1326件の集計を行い、それぞれのメールを相談者の性別、相談者の患者との関係、地域、相談内容、外来受診の有無などについて分類し痛風患者の動向を検討してみた。 

相談者の性別は、男性1029件(77%)、女性276件(21%)、性別不明21件(2%)であり、年齢構成は、30歳代が、369件(28%)と最も多く、ついで20歳代が、144件(11%)、40歳代が、123件(9%)であった。記載がなく年齢不詳のケースも多く、本集計でも552件(42%)が、年齢不詳であったため現在では、相談フォームを作成し性別、年齢を記載してもらっている。一方、年齢の分かっている774件については、先に述べたように、若年者からの相談が多く、40歳未満の相談者が、416件(67%)と多数を占めた。相談者は、患者本人が大部分を占めたが、家族や知人による相談は、141件(11%)であり、特に60歳以上の高齢者では、家族による相談が多かった。ここでも、相談者を特定できないケースが多く存在した。また、数は少ないが、医療系教育機関の学生や教師、医師からの相談も数件認めた。 

地域としては、特定の偏りはなく、広範囲から医療相談が寄せられたが、これも地域を特定できないケースを多く認めた。インターネットの性格から、海外の日本人からの医療相談も69件受け付けた。 相談の内容としては、痛風の診断や治療に関するものが、678件(51%)でもっとも多く、次いで食事制限の仕方や日常生活上の注意に関するものが,333件(25%)と多く見られた。専門医の紹介を希望するメールも多く、111件(8%)を数え、痛風研究会のホームページ上の登録医療機関リストを紹介した。実際に当院痛風外来を受診した症例は、60例あり、相談件数全体の約4.5%であった。

【痛風メーリングリスト】

メーリングリスト(ML)とは、Eメールによって特定のメンバー間で情報や意見を交換するシステムのことである。同じ目的やテーマを持ったグループで、一つのメールアドレスを決めておき、そこへ参加者の一人がメールを送ると、それがそのグループに所属する人全員に配信される。そして誰かがそのメールに対して返事を書くとそのメールも参加者全員に配信される。このようにして、多人数で意見交換をすることが出来る仕組みである。この仕組みを利用して当院では平成12年7月から痛風医療相談への相談者を中心とした痛風メーリングリスト(GML)を立ち上げた。相談内容を参加者全員が共有することでより幅広く有益な情報を得ることが出来る。GMLには痛風・高尿酸血症の患者や家族の他、医師、薬剤師、栄養士などの医療関係者も参加しており、一対一のEメールに比べて偏りのない正確な情報を提供することが可能と言える。GMLでは過去のメッセージの一覧を極プライベートな部分を除いて公開しており、これを読むと痛風患者の殆どの疑問に答えることが可能である。実際の診療に例えるとEメールによる痛風医療相談が初診であり、GMLは再診に当たると考えられるが、長期間の尿酸コントロールを必要とする痛風・高尿酸血症患者にとっても治療へのモチベーションを維持するきわめて有益なツールである。

【個人情報の保護とセキュリティ】

インターネットを利用して個人の医療情報を送受信する際には、扱われる情報が個人を特定できるものであることが多くなることから、プライバシー保護の観点から、情報の扱い方に留意しなければならない。今日、個人の医療情報が電子化して記録、保存される機会が増えてきているが、これらの情報が、ネットワークを介して広域的に容易に伝送されるようになってくると、個人にかかる重要な情報が不用意に漏洩したり、不正に利用されるリスクも高くなってくる。日本インターネット医療協議会(JIMA)が平成11年度に行った調査でもインターネットを利用したことのある患者、家族の72%が個人情報を保護に不安を感じたと回答した。一方でホームページの開設は誰にでも簡単に出来る反面、全くの他人が医療機関の名前を騙ることも可能であり医療相談などを行う場合、ホームページの真正性の確保が必要となる。しかしながら現在、明確なセキュリティ対策やサイト認証を行っている病院ホームページは殆どない。今回当院では、第三者的ホームページ認証機関である、ベリサイン社の認証を取得し、ホームページ上に認証マークの掲示するとともに個人情報保護規定を掲載した。さらに、痛風医療相談のSSL(Secure Socket  Layer)による暗号化を実現した。当院ホームページ利用者にアンケート調査を行い医療系ホームページやメールによる医療相談への信頼感、今回のセキュリティー、個人情報保護対策への感想と他の医療系ホームページでの同様の取り組みの必要性について調べたが、半数以上が医療系ホームページの信頼性に不安を感じていた。殆どの回答者が今回の取り組みで当院ホームページや痛風医療相談への信頼性が向上し、他の医療系ホームページでも同様の取り組みが必要と答えた。今まで医療相談サイトなどを訪れても個人情報保護の不安から実際の相談を行わないことが多いと推察され、今後医療系ホームページでもセキュリティー確保や個人情報保護への対策が必要であると考えた。

【医療情報発信者のガイドライン】

医学の進歩とともに医療や健康に関する情報も増え内容も多様化している。インターネット上では情報の多さ、多様さ故に利用者側において内容を正しく理解したり、内容の真偽を見極めることが難しくなってくる。このためインターネットを通じた医療情報の流通利用がうまく行われるための何らかの仕組みが必要になってくる。こうした環境の変化を背景に日本でも1998年、医療分野におけるインターネットの安全、有効利用の環境作りを目指して、医療関係者や弁護士、患者代表が集まり非営利の任意団体、日本インターネット医療協議会が発足した。同協議会では、情報提供者が情報発信の際に最低限守るべき以下の三つの項目をあげ、「情報発信者のガイドライン」として提案している。 

①情報提供者が誰であるかを明示すること。 
②電話、eメール等の問い合わせ窓口が設置されていること。 
③提供された情報が必ずしも常に有効ではないことを前提に、自己責任の原則のもと情報利用してもらうよう予め告知しておくこと。


当院では上記のガイドラインに基づいて、医療情報ご利用の際の注意とお願いとして以下の文章を掲載している。 
「このホームページに掲示されている情報は、インターネット上における情報の相互的有効利用を目的として、提供されるものです。掲示された情報の内容は、よく吟味、点検されたものではありますが、必ずしも常にその確実性が保証されるものではありません。また、病気の診断、治療、その他医学的分野において、提供された情報が、必ずしもすべての方に有効とは限りません。情報の利用は、利用者自身の自由な判断、意思のもとになされるべきものであります。万一、情報の利用の結果、利用者において不都合、不利益が発生することがあっても、情報の提供者側は最終的な責任は負えないことをご了解の上、慎重に利用いただきますようお願いします。」

【考察】

現在、インターネットのホームページには、病気に関する情報を提供しているものも多く、特に糖尿病、高血圧症などの生活習慣病を扱ったホームページは多く存在している。しかし「痛風のホームページ」を立ち上げた平成9年9月当時は、まだこういったホームページの数も少なく、特に痛風に関して情報を提供しているホームページは少なかった。この中で比較的早くホームページを立ち上げたこと、「yahoo」を始めとした各検索エンジンで「痛風」で検索した場合の上位に掲載していただいたことによりアクセス数が増加したものと考える。一方、Eメールを利用した医療相談は、医療機関や健康、病気をテーマとしたホームページ上や医療相談ホームページなどで広く行われているが、特定の疾患を対象とした医療相談の現状や動向、問題点などをまとめた報告は少ない。当院の痛風医療相談での男女比は、約8:2であり、年齢構成では、30歳代が最も多かった。これは、本邦における一般的な痛風の報告と比べると、女性の比率がやや高く、年齢構成も若年化しているように思われるが、米国における疫学調査の結果とは、ほぼ一致してると考えられる。しかし、当医療相談がインターネットを利用して「痛風のホームページ」にアクセスし、Eメールを送受信出来る患者に限られるということも考慮しなければならない。 

医療相談の内容は、診断や治療内容、に対するものが最も多く認められた。病状や検査データなどについても具体的な記述が多く、痛風患者が切実に医療情報を欲している事が示唆された。診断や治療に対する質問では、高尿酸血症と痛風自体の考え方に関するものや、痛風発作時の薬の投与方法に関するものが多く見受けられ、初回発作時の尿酸降下薬の同時処方や、逆に尿酸降下薬服用中の発作に対する指導や治療法に基づくものを多く認めた。その他、漢方治療や民間療法に対する質問もあった。食事についての質問では、具体的な食事内容の指示を希望するものが多く、プリン体含有量や飲酒についての質問も多かった。海外の在留邦人からの相談も基本的に同様の内容であったが、尿酸値の表示単位の違いや内服薬についての質問が多かった。また、専門医の紹介や尿酸クリアランス検査を希望するケースもあり、痛風研究会のホームページ上の登録医療機関リストを参照して頂くようにURLを教えているが、当医療相談の趣旨は専門医の紹介ではなく、あくまで地域の主治医の元での継続治療を支援することであると考えている。 

医療相談に対する回答は、基本的に毎朝診療前にEメールをチェックして、直ちに返信している。食事療法などの定型的な質問に対しては、定型文を幾つか用意してあり、そこから選んで返信している。これは、「痛風」に限定した医療相談であるため、相談内容の傾向が一定しており、詳細な下調べや他の専門医との相談の必要が少ないことから可能となっていると考える。継続して相談が必要なケースでは、GMLへ参加したもらうようにしている。診断や治療についての具体的な回答は、Eメールのよる医療相談で常に問題となるものである。当医療相談では、「実際に診療や検査を行った訳でありませんので、あくまで一般的な状態に対する健康相談の範囲とご理解頂き、主治医や専門医にご相談することをお勧めします。」という文章を返信内に挿入している。その上で、検査結果の見方や痛風の病態や治療法の解説、主治医への質問内容の整理、方法などを出来るだけわかりやすくアドバイスするように心がけている。「主治医の先生とよく相談しながら現在の治療を続けて下さい。」の一言で安心して治療を継続するケースや「主治医の説明が良く理解できた。」と言う返事も多く、インターネットでの医療相談が転医のきっかけとはならず、痛風患者にとって有意義に活用されていると考えている。懸念される相談者からのクレームやトラブルは、痛風医療相談に関しては1例も経験していない。これは、痛風が生死に直結しないことや痛風患者の性格などにもよるところがあると考えている。当医療相談から、実際に当院痛風外来受診に繋がったケースは、約4.5%と決して多くはないが、この他にホームページを見て受診した患者も多く、当院痛風外来の初診患者の殆どが当院ホームページを検索しての受診となっている。インターネットを利用した医療情報提供や医療相談は、痛風・高尿酸血症患者のインフォームドコンセントにとってきわめて有益かつ重要であると考えた。

参考文献・URL

1)大山博司、諸見里仁:
インターネットを利用した痛風医療相談の現状. 痛風と核酸代謝 
Vol.24 No.1、52-53、2000 

2)神津仁:
インターネット医療相談. Jamic Journal Vol.17 No.5、1997 

3)川島理:
電子メールとメーリングリストを活用した情報交換. 医療とコンピュータ
Vol.11 No.5、60-61、2000 

4)大櫛陽一、辰巳治之他:
インターネット上の医療情報の提供と利用の実態に関する調査研究. 
http://www.jima.or.jp/JISSEKI/kousei1999.html 

5)大櫛陽一、辰巳治之、大山博司他:
インターネット利用におけるセキュリティの確保並びに個人情報の保護の在り方に関する調査研究 
http://www.jima.or.jp/JISSEKI/kousei2000.html 

6)三谷博明:eヘルス革命. 日本医療企画 

7)両国東口クリニックのホームページ http://www.higasiguti.jp/

8)痛風研究会ホームページ http://www1e.mesh.ne.jp/tufu/ 

9)日本インターネット医療協議会  http://www.jima.or.jp/


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